劇団ミュ
ミュージカル『妻と飛んだ特攻兵』は
6月29日に無事千穐楽を迎えました。
簡単に観劇のご報告をさせていただきます。
全公演終了後ですのでネタバレも含む内容となりますことご了承ください。
【あらすじ】(やや詳細。ネタバレあり)
秋内哲也は、子供のころ身体が弱かったこともあり徴兵検査に甲種合格とはならず、友人たちが誇らしげに戦地に旅立つ姿を見送るしかなかった。
町長である父・義雄はそんな息子を「恥さらし」と罵倒し叱責する。
自分は誰の役にも立たないという失意の中、大好きな映画館でのアルバイトが心の慰めだった。
その映画館で映画好きの女性竹原昌子と知り合う。 大本営発表の戦勝ニュースや戦意高揚の映画しか上映されていない時代に、昔の外国映画への憧れや夢を語る昌子はとても眩しく、また昌子も穏やかで映画について語り合える哲也に好意を持った。
もし戦争が終わったら映画館をやりたいという同じ夢を持っている二人は、営業後の映画館で昔の映画をこっそり見ながら逢瀬を重ねる。
そんな中、哲也の親友で妹・加奈子の夫でもあった地元でも評判の優等生二階堂正春は、壮行会で多くの人に見送られながら、出征した。 笑顔の下に自分の恐怖を押し込め、妻や国を守るために戦い、生きて帰ると誓ったが、南方で戦死する。
無力感に苛まれる哲也は新たな徴兵制度に応じ、「特別操縦見習士官」(特操)に合格。 最初は厳しい上官にしごかれるだけの毎日だったが、無事飛行訓練を終え、満州の飛行教育隊に配属される。
新入隊員たちに飛行技術を教える才能を認められ教官として評価されながらも、自分が直接敵と戦えない状況が歯がゆく情けなく思っていた。 日本の戦況悪化でついに彼が教える隊員たちが特攻兵として若い命を散らせてゆくことになる。
そんな戦況の中、昌子は母・千代子の後押しで哲也を追って命からがら満州に渡り、二人はほんのつかの間幸せな新婚生活を送る。
日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連軍が満州に侵攻してきた直後の1945年8月15日、ついに第二次世界大戦は終戦を迎えた。
しかし、ソ連軍は侵攻を停止しない。 関東軍の上層部は現地に暮らす邦人や開拓民たちを残して逃走。 逃げ惑う開拓民はソ連軍に虐殺され、集団自決を選ぶ人々もいた。
指揮命令系統の崩壊した中に残っている一般兵たちは、敗戦国として武装解除することしか許されていない。 しかし飛行隊員たちは少しでも日本人を救うためソ連軍に対して最後の特攻を行うことを決意する。 それは重大な軍規違反であると入谷隊長が厳しく諫めいったんその場は収まったかに見えたが、彼らの決意は変わらなかった。
入谷隊長は若い哲也夫婦を脱出させるため自分が入手した列車の切符を密かに譲る。 自分たちに脱出の手段はなくなったこと、自分は武装解除後にソ連の捕虜にはならないという決意を妻・明子に伝えると、気丈な明子は先に行って待っているからと夫に銃で撃たれることを望んだ。
哲也は昌子だけでもなんとか日本に帰すため、駅で待ち合わせしようと嘘をついて切符を渡し自分は基地に向かう。 昔から無力を恥じうしろめたさを感じながら生きてきた哲也は、やっと自分の命を誰かの役に立てる時が来たと思い、特攻を決意している飛行隊に合流した。
待ち合わせ場所に哲也が現れないため、昌子は切符を別の人に譲り基地に戻ってくる。 そして哲也の決意を知ると、最後の瞬間まで一緒にいたいと強く願う。
8月19日二人は一緒に特攻機に乗り込んだ。
(このあらすじは観劇から受け取った個人の印象も含めて作成したものであることご了承ください)
<感想>
80人ほどで超満員の小さな会場で、生演奏・生声・生歌のミュージカルは想像以上に素晴らしい体験でした。 スピーカーを通さず届く歌声はこんなにも繊細で熱量を持っているものなのか!と。 (もちろんそれは出演者の皆様の歌唱力あればこそで、今回初めて拝見する方も多かった自分の不明を密に恥じました)
それだけに、この物語が実話をベースにしているということが本当に重く辛くのしかかってきます。
せっかく終戦を迎えたにもかかわらず、軍上層部の責任放棄によって起きた保護の空白期間と混乱が招いた悲劇ですし、この後生き残った人々に降りかかる苦難も私たちは多かれ少なかれ歴史として知っているだけにやり切れません。
誰もが国のため、愛する人のために死ぬことを恐れず戦うことが正しいとされていた時代の「空気」が、小さな劇場の空間を満たしていました。
その閉塞感とある種の奇妙な高揚感の中で人間の感性が歪められてしまう恐ろしさもひしひしと感じました。
救いのない結末を迎えてしまうお話ですが、この時代を必死に生きた人々の尊い努力や思いがあって、今自分たちがここにいるんだと感じ身が引き締まりました。
人を愛すること、幸せな夢を持つことすら否定され心を押しつぶされる時代の先に起きた悲劇を、こうやって舞台化して届けてくださった関係者の皆様に感謝したいと思います。
※感想はあくまでも当サイト発起人個人のものです。
<畠中さんについて>
畠中さん演じる哲夫の父・義雄は、身もふたもない言い方ですけど横暴なモラハラおやじ、です。 町長の息子が戦争に行かないなんて恥さらしだと激しく哲夫を責めて殴っていました。もちろん当時はこれが当たり前のことだったと思います。
娘の加奈子の夫が出征するときも大喜びだし、戦死の知らせがあった時も「立派な軍神となったんだ」と本人は慰めているつもりで、加奈子の悲しみに寄り添うことができません。
しかし実際に哲夫の出征が決まった時、「よくやった!」と大喜びしたものの、一人になると「本当は戦地に送り出したくない、息子よ行くな、死ぬな」という思いを吐露します。(ここのソロは畠中さんの真摯なお芝居と生歌の素晴らしさが炸裂です)
父親としての当たり前の気持ちを素直に表すことすらできなかった時代。 そんな父の本心を知ることなく、自分の命を犠牲にしてでも誰かの役に立たなければと思い詰めながら戦地に赴く息子。 この時代に日本中で数えきれないぐらいあったはずの「家庭の中の悲劇」だと感じました。
また、畠中さんは基地では隊長より年長の兵士「佐藤さん」として再登場します。
偵察機で飛び、戦争は終わったのに侵攻をやめないソ連軍に蹂躙されていく日本人たちの様子を基地に報告していました。 その報告を聞いて、若い兵士たちも最後の特攻をしかけたいと決意するのです。
一人でも日本人の犠牲者を減らせるならやらせて欲しい、と訴える佐藤に隊長は軍規違反は絶対に許さん!と拳銃を突きつけます。 まさか自分はここで撃ち殺されるのか??と生死ぎりぎりの境を見つめる畠中さんのお芝居も必見でした!
最終的には隊長は見て見ぬ振りをしてくれて、佐藤は自分たちを「神州不滅特別攻撃隊」と名付けると号令をかけて皇居の方角に向かった最敬礼し、飛行機に向かいました。
それなりに年配の佐藤さんが最初から特攻兵としてあの場所に配属されていたとは思えないので、おそらくもとは偵察飛行任務だったのかと勝手に想像しております。 若者たちが特攻兵として散ってゆく姿をずっと見送り続けた彼は、最後に自分もその命をかけて日本人を守ろうとしたのでしょう。
<おまけ>
今回、全出演者のブロマイドが販売されました!劇団ミュさんすばらしい!ありがたい!ということで、もちろん畠中さんのブロマイド4枚組、購入しました。
プログラムの上に広げるとこんな感じです。 渋い! (本番ではもっと短髪です)